映画“アメリカン・ジゴロ”をテレビで見た。
どこか影のある高級ジゴロが孤独な有閑マダムと惹かれ合っていく現代人の満たさ
れた孤独と弱さを描いた映画だが、“プリティ・ウーマン“に出る前のリチャー
ド・ギアがまだ弛みのない引き締まった体で魅力的なジゴロ役を演じている。
大物政治家のワイフである女とベッドを共にしながら別の女の電話に優しく語り掛
ける様は何ともうらやましい限りだが、その彼があるとき男友達に言い切った。亭
主に相手にもされない中年女達にどうしてそこまで優しくできるのか男に問い掛け
られたときだ。

「俺が優しくしてやらなかったら誰がしてやれる?　ジゴロの俺だけさ」

続けて彼は言う。

「ジゴロは女を泣かせない」
「ジゴロは女を苦しめない」

なんともそれっぽいセリフだが、やけにその言葉が耳に残っている。
愛する女を幸せにすることは難しい。
それゆえジゴロは女を泣かせず苦しめず、優しく接するのだろう。
だが、哀しいことにジゴロは女を幸せにはできないし、ジゴロも女も幸せには決し
てなれない。

昔好きだった女のコが泣いた後、いつも僕を哀しい目で見ていた。
それでも彼女は僕を苦しめることはなかったし、もちろん僕が泣くこともなかっ
た。

「僕は女を泣かせてきた」
「僕は女を苦しめてきた」
「それなのに彼女を幸せにできなかった」

僕は今彼女の気持ちが少しわかる歳になっている。