僕が映画を好きになったわけ





僕が映画を好きになったわけは簡単である。
僕の好きな従兄弟が映画を好きだったからだ。
盆と正月に彼の生家へ遊びに行くたびに僕は彼と一緒のベッドで天井の映画スターの
切抜きを見ていた。
スティーブマックィーン、ジェームズディーン、マリリンモンロー、チャプリン、
“がんばれベアーズ”のテイタムオニール．．．．．
僕は彼の家へ来るたびにロードショーを広げ海外スターの名前を覚えた。
カタカナの名前は苦手だったが、真っ先に覚えたのはブルースリー。
この理由も簡単だ。
従兄弟のお気に入りがブルースリーで“燃えよドラゴン”のポスターが部屋の一番目
立つところに貼ってあったからだ。
僕は従兄弟と同様あの“怪鳥音”に魅せられ、ヌンチャクにとりつかれた。
彼のところへ行くと必ず新しいヌンチャクがあった。
ビニール製、プラスティック製、何か硬いものでできたもの、最終的にはテレビの脚
で作ったヌンチャクに落ち着いた。
僕は従兄弟が使った後を待って一生懸命練習した。プラスティックのやつは爽快で思
うように操れた。
それから僕も中学高校となり大学生になった。
ある時、すっかり縁遠くなった従兄弟の家に行くことになった。
僕はノスタルジックな気分になり密かにあの頃の部屋を想像した。
ところが部屋に着くとそこには見たこともないミュージシャンのポスターが所狭しと
貼ってあり、
従兄弟はベッドに寝転んで音楽番組を見ていた。
呆然と立ち尽くす僕の名前をベッドの下を覗きこんだ従兄弟が呼んだ。
“おい、ビニ本見せてやろうか？”

従兄弟は今も時たま映画を観ている。。




北原恵　1999.2.21



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